夏のアルバム

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はるか(後編)


 三日目の朝には顔の腫れも引いて、身体の調子もすっかり元通りになった。ベッドから出て一階へ降りると、ひよこのエプロンを着けたはるかが料理をしていて、美味しそうな匂いが俺の胃袋を刺激する。

「おはよう」
「あっ、おはよー光太郎。調子はどう?」
「……腹減った」
「あはは、だよねー。もうすぐ出来るから、その前にシャワー浴びておいでよ」
「お、おう」

 自分の家のように振る舞うはるかだが、俺たちにとっては珍しい光景ではない。うちは両親が共働きなので、誰もいない夏休みの昼間などには、こうして家事や食事の用意をしてくれたりするのは、もはや恒例と言ってもいい。バスルームで汗を流し、パジャマを着替えてリビングに戻ると、テーブルの上には温かい朝食が並べられており、腹を空かせていた俺はあっという間にそれを平らげた。

「ふうっ、ごちそうさまー。相変わらず美味かったぜ」
「うふふ、ありがとう。ねえ光太郎、ひとつ聞いてもいいかな」
「ん、なんだ?」
「ほとんど勝ち目ないって分かってたのに、どうして斉藤くんとの勝負にこだわってたの?」
「あー、えっと。それはだな……」
「あんなに必死で真剣な光太郎、初めて見たもん」
「い、言わなきゃダメ?」
「だーめ」
「ぬうっ」

 いつもなら言葉を濁して逃げるところだが、もう自分の気持ちを誤魔化すのはやめた。二人の間に距離が出来たことで、身に染みて分かったこともある。

「はるか、あのな」

 俺は立ち上がり、はるかの目の前に立つ。

「ど、どうしたの急に」
「お前を取られたくなかったんだ」
「えっ」
「はるかが斉藤とデートしてるの見て、本当は悔しかった。すげえ悔しかったんだ。俺はお前と一緒にいるのが当たり前だと思っていい気になって、いつも甘えてたんだなって分かってさ。だから、ちゃんと言うよ」

 飾りはいらない。伝えたいのは、ただ一つの言葉だけ。

「ずっと、ずっと前から俺は……俺は、和泉はるかが好きでした」

 心臓がバクバク鳴って、震えるくらいに緊張した。はるかは両手で顔を押さえてうつむき、小さく頷く。そっとはるかの両手を取ってやると、涙で潤んだ瞳がじっと俺を見ている。濡れたまつげを指先で拭いてやり、紅潮した頬に手を当てたまま、返事を待つ。

「あは……やっと言ってくれたね。私もね、好きだよ。光太郎が大好きなの」

 もう言葉はいらない。手のひらに伝わる温もりが、幾万の言葉より全てを語ってくれる。
 俺たちは確かめるように、そして初めてキスをした。

「ん……っ」

 唇が触れた瞬間。ぬくもりを腕の中に感じた瞬間。もっともっとはるかを求める衝動に火が点いて燃え上がる。

「は、はるか。その、悪ぃ。俺、欲しくてたまらないんだ。もうお前を離したくない」
「いいよ……光太郎なら恐くないから」

 俺たちは手を繋いで二階の部屋に向かい、ベッドで抱き合ったままずっとキスをしていた。強く抱きしめ合って唇を重ね、少し顔を離して、目が合うとまた唇を重ねて。

「ん……んんっ……」

 キャミソールの上から、はるかの胸に手を乗せる。ブラの上からでも良く分かる、形の良い乳房を撫で、指に力を込めてふにふにと揉む。最初は身体を硬くしていたはるかも、次第に力が抜けて息づかいに湿り気を帯び始める。

「俺の手、痛くないか?」
「うん、平気だけど……は、恥ずかしいよぅ」

 指を噛んで耐える仕草に、男心がたまらなく刺激される。思うままに、乱暴にしたくなる衝動が湧き起こるが、それを押さえ付けて紐で縛って心の奥に放り込む。

「はるか」
「こ、光太郎……んっ」

 せつない表情で、はるかはキスをせがむ。唇を重ねた後、今度は舌を滑り込ませてみた。驚いて小さな悲鳴を上げるはるかだったが、漏れる声はますます甘く高くなり、一生懸命に舌を絡ませて俺を迎え入れてくれた。

「ちゅっ、ちゅっ……はむ……はぁ……んっ……」

 水っぽい音が響くキスが続き、はるかは熱に浮かされたようにボーッとしている。俺はキスを終えてはるかのキャミソールを脱がし、続けてブラのホックを外す。ぷるんと揺れて現れた胸の頂上には、蕾のような乳首がツンと上を向いている。

「す、すげぇなお前」
「や、やだぁ、じっと見ないでよう」
「いや、マジで綺麗だって」
「う、嬉しいけど、でも、でもっ」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがるはるかだったが、お世辞抜きに綺麗だと思った。サポートを失っても形が崩れず、少し手のひらに余る大きさの美しい乳房に、俺はすっかり虜になってしまった。まずは手のひらで直接触れて、感触を確かめてみる。肌はすべすべして柔らかく、程良い弾力も備えた白い膨らみの感触は、クセになりそうである。思う存分揉んで堪能した後、指先で乳首を押してみた。

「ひゃんっ」

 びくんと身体を踊らせ、はるかは少し身を引く。嫌がっている様子ではなく、条件反射だろう。少し赤みがかった乳首を軽く弄ったりつまんだりすると、先端がコリコリとして尖ってくる。ちょっと楽しくて夢中になってしまったが、はるかの喘ぎ声はさらに大きく、甘くなっていく。

「はるかは感じやすいんだな」
「バカぁ、そ、そんなこと耳元で……あんっ」

 間髪入れず、俺ははるかの胸に吸い付く。あまり強く吸い過ぎると跡が、いわゆるキスマークが付くと聞いていたので、弱めに吸いつつ舌を這わせると、はるかは俺の頭を抱きかかえてベッドに倒れ込んだ。

「はあっ、はあっ……あんっ、うふ、ふふふっ」

 急に笑い出すので顔を上げると、俺の髪をくしゃくしゃと撫でて、はるかは微笑む。

「あれ、くすぐったかったか?」
「光太郎ったら、大きな赤ちゃんみたいで可愛いなって。うふふ」
「赤ちゃんじゃねーから、おっぱいだけで満足しないぞ」
「わ、わかってるよう。エッチな男の子だもんね」
「ひとこと余計だっての」

 下半身に手を伸ばしてスカートを外せば、はるかはブラとおそろいの下着一枚を残すのみ。パンツの端に指を掛けてゆっくり引いていくと、はるかも腰を少し浮かせて脱がせやすくしてくれた。白くシミひとつ無い肌。寝そべっても形の崩れない、程良い大きさの胸。細く無駄のない手足に、くびれた腰から太ももへと流れる美しいライン。全てが調和したはるかの姿は完璧で、本当に手を触れて良いのかと、つい生唾を飲み込んだ。俺も服を脱いではるかの横に寝そべり、抱き合って唇を重ねる。

「ん……ちゅっ……んむ……はあっ、はあっ……」

 俺とはるかの舌は踊るように絡み合い、いつまでもキスは続く。混じり合う唾液の味も、肌で感じる互いの熱さも、全てがたまらなく官能的で、もっとはるかを感じていたいと思う。俺はキスを続けながらはるかの身体に手を這わせ、秘裂の奥に隠れた女の部分へそっと滑り込ませる。

「んあっ……」

 僅かな茂みの奥に隠れたそこは、熱を帯びて濡れていた。少し触れるだけではるかの腰は浮き、奥から止めどなく熱いものが溢れてくる。敏感な部分をなぞっていくと、ぬるぬるとした液が指に絡みつく。たっぷりとそれをすくい取ると、指先をはるかの中へと沈ませた。

「ひうっ!」

 熱くしっとりと濡れた壁が指を包み込み、少し動かすだけできゅっきゅっと収縮を繰り返す。はるか自身も触れたことがないという膣内に、ゆっくりと俺の指が飲み込まれていく。第二関節が飲み込まれたあたりで進むのを止め、指の腹で膣壁を撫でてみる。

「うああっ、やっ、こうたろ……ひあっ!」

 初めての刺激に、はるかは悲鳴にも似た甲高い声を上げる。いきなり無理はできないので、ゆっくりと小さな円を描いて動かすだけだったが、はるかの感じる快感は相当な物だったらしく、締め付けはさらに強くなり、ぬるぬるした液体が止めどなく溢れてくる。はるかはシーツを掴み、息を荒げて耐えていたが、やがてひときわ高い声を出しながら仰け反った。

「うああっ、あっ、ああっ、あーーーーっ!」

 ぎゅぅぅぅ、と膣壁が痛いくらいに俺の指を締め付け、はるかはびくんびくんと小刻みに身体を震わせて脱力した。どうやら、今のでイッてしまったようだ。俺は彼女の中からそっと指を抜き、熱く潤んだ瞳をじっと見つめて言った。



「はるか、そろそろ俺」
「うん……来て」
「痛かったりつらかったら、我慢せずに言うんだぞ」
「優しいね、光太郎は」
「そんなんじゃねえよ。当たり前のことだろ」
「そうだよね。光太郎にはずっと当たり前だったもんね」

 はるかは少し泣きそうな、嬉しそうな顔で微笑む。それがたまらなく愛おしくて。優しくキスをしてから、ゆっくりと俺ははるかの中に入っていく。

「っくうっ……痛……ぁ……!」

 熱くて狭い場所を半分ほど進んだところで、一旦止めて訊ねる。

「大丈夫か?」
「う……うん。ちょっと痛いけど、思ったよりは平気みたい」
「そっか。でも無理はするなよ」
「ね、ねえ光太郎」
「ん?」
「もう一度、言って欲しいの」

 なにを、と聞き返すほど俺もバカじゃない。ただ素直に、今の気持ちを言葉に代えて。

「好きだ、はるか」
「えへへ……嬉しい。嬉しいなあ。ありがとう光太郎。私も好き。大好きだよ」
「はるか……!」

 奥まで辿り着くと、熱い壁が俺をきゅうきゅうと包み込んでたまらなく気持ちいい。

「うぉ、すげ」
「あああっ!」
「は、はるか。動いていいか?」
「ん……うぁんっ!」

 腰を引き、再び奥まで送り出す。動かすたびにはるかは声を出すが、ゆっくり動くぶんには本当に大丈夫らしい。

「あっ、あっ、あっ、あっ!」

 しばらく同じリズムで動き続けていたが、次第にもっと速く動かしたいという欲望が湧いて、焦れったくなってくる。心で謝りつつ、少しずつペースを速くしていく。

「あんっ、こ、こうたろ……速……っ!」

 ベッドが軋む音に混じって、俺たちが繋がっている場所からぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響く。

「やっ、やあっ……激しっ! あんっ! あんっ!」

 できるだけ自制してきた俺だったが、愛しさと気持ちよさでなかなか歯止めが効かず、夢中で腰を動かしていた。俺の動きに合わせて、はるかの胸がぷるんぷるんと揺れている。それに触れて揉んでみると、はるかは嬌声とも悲鳴とも付かぬ声を上げた。

「ダメっ、さ、触っちゃダメぇ! す、凄く敏感になってるの今……だ、だから」

 ダメと言われると触りたくなるのが男のサガというやつで。両手ではるかの胸を揉みしだくと、泣きそうな声が漏れてくる。

「あうっ、ダメだってば光太郎っ、あ、あたし痺れちゃ……あぁぁぁぁぁ!」

 これ以上続けるとはるかが耐えきれなくなりそうだと思い、俺は胸から手を離し、彼女に覆い被さって抱きしめる。はるかの中は痛いぐらいに締め付けてきて、俺も限界が近付いていた。

「はるか、そろそろっ」
「んっ、はんっ、いいよ光太郎、来て、来てぇっ」
「だ、出すぞ……ううっ!」
「あっ、ああっ、ふぁぁぁ……ああああっ!」

 絶頂を迎えると同時に引き抜くと、白濁した液体がはるかの腹部に降り注ぐ。頭の中で火花が飛び散るような、強烈な快感だった。しばらく俺はぼんやりしていたが、息を荒げて動けないはるかの身体を拭いてやり、隣に寝そべって腕枕をしてやった。

「大丈夫か、はるか?」
「うん……まだちょっとボーッとしてるけど」
「悪い、ちょっとやりすぎちまったな」
「けだものー」
「す、すまん」
「あはは、冗談だよ。ちょっと痛かったし凄かったけど、その……気持ち良かったから」
「お前……初めてだよな?」
「当たり前じゃない。光太郎以外の人に触られてないもん」
「うーむ、素質があるのだろうか」
「な、なんの素質よう! バカ、光太郎のスケベ!」
「あわわ、悪かったっ」

 色々あったけど、幼馴染みから一歩前に踏み出せたことは本当に幸せな事だった。斉藤も鶴田も、きっかけを作ってくれたことには感謝している。そしてさりげなく後押ししてくれた純にも、今度礼を言っておこうと思う。

「なあ、はるか」
「なあに?」
「今度旅行に行こうぜ。海でも山でも、どこでもいいや。あんまり金ないけどさ」
「うん、連れてって。二人でめいっぱい遊ぼうね」
「俺さ……はるかと一緒にいられて本当に良かったよ。ありがとな」

 嬉しそうに頷くはるかの頭を撫でていると、急に彼女は俺の上に覆い被さってきた。

「あの、あのね光太郎。は、はしたない子だと思わないでね」
「ん、どうしたんだよ急に?」
「もう一度……抱いてくれる?」
「ちょっ、お前」
「私もね、光太郎と一緒にいられて良かったと思ってるよ。だから、もっともっと光太郎と愛しあいたいの。ダメかなあ……?」

 はるかの顔は真っ赤で恥ずかしそうで、だけどとても真剣で。

「あーもうっ、そんなの反則だろっ。可愛すぎるぞちくしょうっ」

 結局俺たちは、日が暮れるまで抱き合ったまま離れなかった。




 数日後、俺とはるかは二人きりで旅行に出かけた。高校生の行動範囲などたかが知れているから、電車で田舎の方へ行けるところまで行って一泊するだけの、ささやかな旅行だ。

「わー、すごーい。水がこんなに透き通ってる」
「こんな場所がまだ残ってたなんてなあ。新しい発見だ」

 地元の人に教えてもらった浜辺は驚くほど綺麗で人も少なく、はるかの新しい水着姿を一人占め状態でちょっぴり――いや、かなり嬉しい。照りつける太陽の下、透き通る海と戯れるはるかは誰よりも綺麗で可愛かった。夜になれば夏祭りで花火や浴衣姿も見られることだし、これだけ楽しめれば悪くない旅だろう。

「光太郎、なにボーッとしてんのー? 一緒に泳ごうよー!」
「ああ、今から行くよ」

 真夏の太陽に照らされて、俺たちの夏は輝き始める。今回の出来事で、俺は当たり前のようにそばにいてくれたはるかの大切さが身に染みた。あいつと一緒にいられる喜びを、青空の下を駆け抜けた笑顔を、俺は残らず心に刻み続けたいと思う。二度とボタンを掛け間違えないよう、ひとつずつ大切に。
 ――数年後、俺とはるかは同じスポーツジムの社員として働いていた。はるかは元々この仕事に就く事を考えていたし、水泳の実績があったから順調な道のりだったが、遊んでばかりいた俺は必死に勉強して大学に進学し、スポーツインストラクターになるのに有利な資格を片っ端から取ってみたり、ジムでアルバイトをして経験を積んだりと、とにかくやれるだけの事をやったわけだ。その甲斐あって今、俺たちは地元の子供たちにスポーツの指導をしながら暮らしている。

「はーい、みんな−。お姉さんの所まで頑張って泳いでみよー」

 室内プールで、はるかが子供たちに水泳を教えている。明るく人付き合いのいい彼女にとって、まさに天職と言えるだろう。子供が相手なら水着姿を好色な目で見られることもないし、俺としてもちょっぴり安心できる。

「今日も張り切ってるな」
「あっ、光太郎。見回りお疲れ様」

 ジム内の巡回ついでに、俺はプールに立ち寄って一段落付いたはるかに声を掛けた。最近はますます色気が増してきて、水着姿だってよく知っているはずなのに、たまにドキッとするぐらいだ。

「子供相手にしてるときのお前って、本当に楽しそうだな」
「だって可愛いんだもん。光太郎もそう思うでしょ」
「まあな」
「いいなあ、子供って」
「じゃあ俺たちも生産を頑張ってみるか?」
「こ、こんな場所でなに言ってるのよエッチ」
「別にここでしようなんて意味じゃないんだが」
「んもうっ、知らないっ」

 顔を真っ赤にして、はるかは俺の背中をべしべしと叩く。高校時代と比べて俺たちは大人になったが、こんな軽口とやりとりだけは変わらない。

「げほげほっ、手加減しろって」
「ふーんだ、光太郎が悪いのっ」
「なあ、はるか」
「なあに?」
「お前さ、今の生活楽しいか?」
「うんっ、とーっても」
「そっか。ならいいんだ。ちょっと聞いてみただけだから忘れてくれ」

 ふっと笑う俺を見て、はるかの顔にも微笑みがこぼれる。周りを少し気にして俺に密着すると、はるかはそっとキスをしてすぐ離れる。

「おいおい、こんな場所でって自分で言ったのにお前」
「ね、光太郎っ」
「なんだ?」
「私たち、おじいちゃんやおばあちゃんになってもずーっと仲良しでいようねっ」

 幾重にも分かれ、遠く霞んでいた道の先。夢中でたぐり寄せた糸の先にはるががいて、一緒に歩き続けてきたこの場所が、俺の選んだ道だ。隣にいてくれるはるかの笑顔は、いつだって俺を幸せにしてくれる。あの夏はまだ続いていて、俺たちは今も変わらず恋をし続けているのである。


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