「……変わらないな、ここは」
久しぶりに見る田舎の景色は、記憶とまったく変わらない。田舎の終点駅に降りた臼井孝博がそう呟いたのは、秋も深まったある土曜日の午後だった。小さな駅を出れば、幼い頃によく遊んだ古い寺が見える。だが、よみがえる記憶も懐かしい風景も、今の彼にとってはただ足を重くするばかり。小さなため息をひとつ吐くと、孝博はカバンを握りしめて歩き出した。
「ただいま」
十五分ほど歩いて実家に辿り着き、玄関を開けてそう言った。返事は無かったが、孝博は構わず家に上がる。事前に連絡したところ、今日は両親が揃って旅行に出かける日で、家には誰もいない。彼は居間に上がるとカバンを投げ出し、大の字になって寝転がった。
「はぁ……」
天井を見つめながら、孝博は大きくため息をつく。都会とは違い、田舎の家はとても静かだ。静けさの中で一人、彼はゆっくりと両目を閉じた。
得意だった絵で食っていこうと、臼井孝博が上京したのは五年前の事だった。東京の美術大学に入り、ひたすらに自分の絵を認められるようにと努力してきた。大学を卒業後、時々イラストの仕事をもらったりしていたが、そのわずかな報酬だけでは到底暮らしていけない。思うような評価も得られず、やがて貯金も底をつき、孝博は遠く離れた故郷へ戻ることを決めた。身の回りのものを全て売り払って作ったわずかな金は、新幹線の切符代に消えた。新幹線を降りて電車を乗り継ぎ、さらに揺られること二時間あまり。山間にある小さな町が、孝博の故郷だった。
「――ろ……きろ……」
誰かの声がする。声が小さくてよく聞き取れない。何を喋っているんだろうと耳を澄ましていると、頭にごつんと衝撃が走った。
「いてっ」
「起きろって言ってるでしょうがっ」
傷みに目を覚ますと、見上げる視界の先にセーラー服の少女がいた。ポニーテールで可愛い顔をしてはいるが、腕を組んで眉をつり上げ、怒った表情で孝博を見下ろしている。
「ど、どちら様?」
「もうね、信じらんない。五年ぶりに帰ってきたのにさ、私に挨拶もしに来ないで家で寝てるなんて。しかも顔まで忘れてるし」
「ま、まさかお前……コッコか?」
「あ、名前は覚えてるんだ」
「当たり前だろ」
孝博は体を起こして立ち上がり、むすっとしている少女を見た。芦原琴子――五つ下の幼なじみで、活発だった彼女は孝博のことをタカ兄ぃと呼んで慕い、いつも彼の後をついて回っていた。孝博はちょこちょこと小走りで後を付いてくる琴子のことを、ひよこみたいだからと「コッコ」というあだ名を付けて可愛がっていた。
「大きくなったなあ。でもなんでお前、俺の家に勝手に上がり込んでるんだ」
「昨日おばさんから電話があったの。タカ兄ぃが帰ってくるから面倒見てくれって。鍵も預かってるよ」
「高校生に面倒任される俺って一体……」
「東京で挫折して帰ってきたんだから、私が面倒見てあげなきゃダメじゃん」
「お前……グサッと来ることを」
「ふーんだ、人の顔を忘れてた罰だよーだ」
そっぽを向いてはいるが、琴子の表情は明るい。多少毒づいて少しは気が晴れたのか、彼女は台所に向かい、勝手に冷蔵庫を開けて料理をし始めた。
「おいおい、人の家の食材を勝手に」
「おばさんから許可は出てるもん。それに、よく料理教えてもらいに来てたから」
「そ、そうなのか。なんでまたお袋なんかに」
「……別にっ」
微妙に言葉を濁しつつ、琴子は野菜を切り始める。何気なく時計に目をやれば、もうすぐ六時になろうとしている。思った以上に長い時間寝てしまっていたらしい。何か手伝おうとも思ったのだが、邪魔になるからいいと言われて孝博は大人しくしていた。やがて良い匂いがし始め、ほどなくして台所に琴子が作った夕食が並べられた。ご飯に味噌汁、おひたし、カボチャの煮付けに焼き魚というシンプルなメニューではあったが、口を付けて驚いたのはその味だった。
「お袋の味と同じだ」
「そりゃそうでしょ。おばさんが先生なんだから」
「いや、ここまで再現してるとは驚いたな」
「ふふーん。こう見えても努力してるんだからね。ちゃんと結果出てるっしょ」
「……そうだな」
身につまされる言葉を聞きながら、孝博は箸で料理をつまんだ。
夕食を終えて食器を片付けた後も、琴子は家に帰ろうとしない。テレビのある居間に座って、入れたての熱いお茶をすすってくつろいでいる。彼女の家は目と鼻の先だから、帰り道が心配という事はないが、いつまでも一緒にいるのはあまり体裁が良くない。
「なあコッコ。いつまでいるつもりなんだ」
「なによう、邪魔って言いたいの?」
「や、そうじゃないが」
本当は丸くぱっちりした瞳の琴子だが、今日は目を釣り上げてばかりいる。それもすぐに元に戻り、にへらと笑った。
「五年ぶりだよ五年ぶり。色々と積もる話だってあるじゃん。そうそう、東京の話とか聞かせて欲しいな」
「……」
東京の話という言葉に、孝博は思わず目を逸らす。
「ねえ、どうして黙ってるの? 東京ってさ、なんでも揃ってるんでしょ? いいなー。私も――」
「別に話すようなことはない」
「ふえ?」
「話せるような土産話なんか無いよ」
「なにそれ」
「東京に行って帰ってきた……それでいいだろ」
「いや、その間のこととかいっぱいあるじゃない」
「とにかく、話せるようなことはないよ」
「んー、じゃあさ、久しぶりにタカ兄ぃの絵が見たいな」
「俺の絵なんて面白くも……っておい、勝手にカバンをあさるな」
「えーっと。あ、あったあった」
琴子はカバンの中に入れてあったスケッチブックを取り出し、一枚ずつページをめくり始めた。
「どれどれ……わあ、ずいぶん上手くなったじゃん。へえー、建物とかも細かいなぁ」
初めのうちは楽しそうにイラストに目を通していた琴子だったが、やがて口数が減り、とうとう眉をひそめて顔を上げた。
「ねえタカ兄ぃ」
「な、なんだよ」
「これ本当にタカ兄ぃの絵なの?」
「そうに決まってるだろ」
「うーん、なんか……」
「なんだよ、言いたいことははっきりと言ってくれ」
「じゃあ言うけど。なんだかこれ、タカ兄ぃの絵じゃないみたい」
「俺の絵じゃない……?」
「うん、確かに凄く上手なんだけど、それだけって言うか。昔はもっと柔らかくてあったかい感じがあったけど、今のはどこにでもある普通の絵って感じ」
「……」
琴子の言葉に、孝博の口から乾いた笑い声が漏れる。
「はは……まいったな」
「?」
「まったく同じ事を、イラストの仕事回してくれた人にも言われたよ。最初に持ち込んだときは下手すぎるから出直せって言われたから、何年も必死に練習して勉強してさ。それで少しは実力が付いたと思ったら、今度は普通すぎてつまらない、こんなんじゃ仕事は取れないって。あーあ、俺は何やってたんだろうな……」
声を詰まらせ肩を落とす孝博に、琴子も胸を締め付けられる思いだった。
「ねえ、東京の暮らしはつらかったの?」
「……いい事なんかなかったな。絵の練習とバイトばかりで、遊んでる暇なんか無かった」
「大変だったんだね」
「やめろよ。慰められたら余計にみじめになるだろ」
「そんなに気にすることないじゃん。またお金貯めてさ、もう一度――」
「なにが分かるっていうんだッ!」
初めて聴く孝博の怒鳴り声に、琴子は驚いて声を失った。
「自分なりに必死に努力したつもりさ。だけど頑張れば頑張るほど虚しくて仕方がなかった……お前に俺の気持ちが分かるのかよ!」
「分かるわけないじゃんッ!」
琴子は一歩も引かず、逆に怒鳴り返していた。
「一人で先に行っちゃってさ。私だって一緒について行きたかったよっ。でもあの時はまだ子供だったし、待つしかできなくて……私の気持ちだって分かんないでしょ」
何も言い返せず、孝博は力なくうつむく。
「東京に出たのは、お前と同じ歳の頃だったっけ。いつか絵で認められて、それを仕事にするんだってバカみたいな夢見て東京に出たのに……恥ずかしくて、親にもお前にも合わせる顔がないんだよ」
悔しさに目頭が熱くなる。唇を噛んでうつむく孝博を、琴子はそっと抱きしめた。
「一所懸命努力して、それでも夢が叶わなくて帰ってきても……それはちっとも恥ずかしい事なんかじゃないよ」
「……」
「私はタカ兄ぃが帰ってきてくれて嬉しかったよ。だからそんなに落ち込まないで」
「はは……子供に心配されるようじゃ、いよいよ俺もヤキが回ったかな」
「もう子供じゃないよ」
「……そうだな」
「つらいことがあったら、私が元気にしてあげる。もう一人じゃないよ。だから……」
「お前……いい女になったなぁ」
「えへへ、努力したって言ったじゃない」
「そうだな。大した奴だよお前は」
孝博は琴子の背に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。いい香りがして柔らかくて、何より温かかった。琴子は抱き合ったまま、ゆっくりとまぶたを閉じていく。
「んっ……んんっ……」
唇が触れあった瞬間、干し草に燃え移った炎のように感情が燃え上がる。五年分の思いを確かめ合うように、二人はキスをした。孝博が琴子の胸に手を伸ばすと、セーラー服の布越しにブラと胸の感触が伝わってくる。立派と言うほど大きくはないが、手のひらに収まるくらいの、程良い大きさの胸だった。琴子は顔を真っ赤にしてはいるものの、嫌がる素振りは見せず、孝博の思うように任せていた。しばらく撫でたり揉んだりした後、孝博はセーラー服を胸元までたくし上げ、ブラをずらした。まだまだ発育途上といった膨らみの頂点に、赤い蕾のような乳首がツンと上を向いている。孝博は久しく見ていない女性の裸に、思わず唾を呑む。
「な、なんというか」
「えっ?」
「すっかり大人になったんだな、コッコ。お前とこんな風になるなんて、想像も出来なかったけど……」
「私はいつもタカ兄ぃのこと考えてたよ。早く大人になって、一緒にいたいって」
「ありがとな……本当に」
礼を言ってすぐ、孝博は空気の肌寒さに気が付いた。琴子の体がわずかに震えているのは、緊張のせいだけではないようだ。孝博は少し考えて、あることを閃いた。
「こっちおいで、コッコ」
孝博はソファに深く座り、琴子を手招きした。彼女が目の前までやってくると、腕を引っ張って自分と同じ場所に座らせると、両腕を回してしっかりと抱きしめた。
「昔はよく、こうやって座って一緒にテレビ見てたよな」
「い、今やると恥ずかしいね、この格好」
「でも温かいだろ?」
「うん……背中にタカ兄ぃの体温感じるよ。あったかい」
琴子は安心しきった様子で孝博に背中を預けてくる。彼女の顔を振り向かせてキスをしながら、孝博は後ろから琴子の胸元をまさぐり始めた。
「あっ、やんっ……あ、ああん……」
セーラー服の裾から入り込んだ手が、もぞもぞと胸元で動く。その感覚と光景に、琴子の口から甘い声が漏れ始める。左腕で琴子を抱きしめたまま、孝博は右手を胸から下へと落としていく。白く柔らかな太ももに辿り着くと、すべすべした肌をさすりながらスカートの奥へと滑っていく。可愛らしい白の下着に指が触れると、琴子の身体がぴくんと跳ねる。
「んっ……はぁっ、ああ……んっ」
「お前のここ、すごく熱くなってる。濡れてる……のか?」
「し、知らないよそんなの……あぁんっ」
下着の中に指を進めていくと、琴子のそこはぬるぬるした液で溢れていた。なぞるように指を動かし、唇よりも柔らかな感触の奥に、彼女の深い部分へと続く入り口があった。
「うあぁっ、あっ、ああ……ひぁ!」
指先をほんの少し沈ませて動かすと、くちゅくちゅ音がする。琴子は身体を仰け反らせ、与えられる快感にただ身を委ねていた。
「くぅっ、はぁ、はぁ……ね、ねえタカ兄ぃ……」
「ん?」
「あの、お尻に……当たってる」
「あっ、わ、悪い。つい興奮して」
「タカ兄ぃもドキドキしてる?」
「ああ、もちろん」
「よかった……」
「コッコ、そろそろいいか?」
「う、うん」
「よし、じゃあこのまましてみるか」
「こ、このまま?」
琴子を立たせてズボンを脱ぐと、孝博のペニスが天井を向いてそそり立つ。琴子はパンツを脱ぐと、おそるおそる孝博の上に腰を下ろし始めた。
「ん……んんっ!」
「大丈夫か?」
「うん、なんとか……くあぁ……っ」
少しずつ、琴子の膣内へと孝博のものが呑み込まれていく。腰が最後まで沈み込むと、琴子は不安と安堵の入り交じった息を吐いた。
「ぜ、全部入っ……た?」
「ああ、コッコの中、すごくあったかくて気持ちいい」
「私も……タカ兄ぃが入ってきて、お腹が熱くて……」
「少し動くぞ」
「え、ちょっと待っ……」
返事を待たず、孝博は腰を突き上げる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
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