ベスト・ガール

目次へ戻る



 高校三年生の夏、沢村ケンジは親の仕事の都合で長年住んでいた田舎から都会へと引っ越してきた。まったく違う環境への不安と抵抗もあったが、引っ越し先の街には親戚とその家族も住んでいるし、別れと出会いは大事にしなさいと言う祖父の言葉に従い、都会での新たな暮らしを承諾した。
 転校初日の帰り道、ケンジは自分と同じ制服を着た六人ほどの少年達が、一人の小柄な少女を取り囲んでいるのを見た。幼く見える顔立ちでケンジより頭ひとつ分ほど背が低く、黒いタンクトップに白のトレーニングウェアを履いた、高校生か中学生くらいの少女である。程良く引き締まった細身と、毛先がツンと跳ねたボーイッシュなショートヘアのおかげか、活発で健康的な印象がある。一方の少年達は髪を金色や茶色に染め、ジャラジャラと派手なアクセサリーをぶら下げたりしてガラが悪く、ニタニタと笑っていて品も良くないし、少女は迷惑そうな顔をしている。

(うーん、仲良くお喋りしている雰囲気じゃないな)

 そう見て取ったケンジは、彼らの元に近付いた。

「大勢で一人を囲むのは良くないぞ。じいちゃんもそう言ってた」

 声を掛けると、ガラの悪い少年達が一斉に視線を向けてくる。思わず腰が引けそうになったが、ケンジはこらえて続けた。

「彼女も困ってるみたいだし、解放してやれよ」

 六人のうち、金髪で一番背の高い少年が前に出て、ケンジを睨みつける。

「引っ込んでろ、このタコ」
「見て見ぬふりはするなって教えられてる」
「だっはははは! おい、聞いたかお前ら? 正義の味方様のご登場だ」

 彼と一緒に、残りの少年達もゲラゲラと笑う。他の連中に対する態度や口調から見て、この金髪の少年がリーダーのようである。

「で、正義の味方様はこの後どうするんだ?」
「とにかく、女の子を帰してやってくれ」
「この辺じゃ見ない顔だな。知らないなら教えておいてやるよ」
「ごふっ!?」

 ケンジはいきなり腹部を蹴り上げられたうえ、背中に肘を落とされて地面に這いつくばった。金髪の少年はケンジの顔の前でしゃがみ、痛みに悶える姿を嘲笑う。

「俺はジョー。金田ジョーってんだ。ここらじゃ俺の顔を見て道を空けない奴はいねえ。素人が俺に意見するなんて、百年早いんだよボケが」

 痛みに声も出ないケンジの髪を掴み、ジョーと名乗る金髪の少年は「返事はどうした」と揺さぶる。他の少年達も、ケンジを見下ろしてサディスティックに笑っていた。

「やめて!」

 止めに入ったのは、小柄な少女だった。少年達の囲みから抜け出し、眉を吊り上げて真っ直ぐにジョーを睨んでいる。

「その人から手を放してください」
「そんな怖い顔すんなよモモ」
「手を放さないと……私、怒ります」
「ちっ、わかったよ」

 ジョーは髪から手を放し、仲間の少年達の方に戻っていく。忌々しそうにケンジを見下ろし、道路に唾を吐いた。

「あーあ、シラけちまった。今日は引き上げるが、俺はまだ諦めてないからな、モモ。それからテメェ、次にそのツラ見せたらどうなるか覚えとけよ」

 いかにも悪役なセリフを吐いて、ジョーは仲間を連れて去っていった。

「大丈夫ですか?」

 モモと呼ばれていた小柄な少女は、心配そうにケンジを覗き込む。やっと身体が言うことを聞くようになったケンジは、腹を押さえたまま立ち上がる。

「だ、大丈夫……げほっげほっ」
「ああっ、しっかり」
「へ、平気平気。それよりみっともないところ見せてしまって」
「連中、街の空手道場に通ってる悪い人たちで、ひどい目に遭わされた人もたくさんいるんですよ」
「はは、僕は運が良かったみたいだ。じゃあ、そろそろ行くよ」
「あっ、待ってください」

 立ち去ろうとするケンジを呼び止め、小柄な少女はぺこりとお辞儀をした。

「助けてくれてありがとうございました。なにかお礼をしたいんですけど、その」
「どうかしたのかい?」
「す、すいません。実は私、これからアルバイトで……もう時間が」
「そりゃ大変だ。僕のことはいいから早く行きなよ」
「あ、ありがとうございますっ。あのう、良かったらお名前聞かせてもらえますか?」
「僕は沢村ケンジ。まだ引っ越してきたばかりなんだ」
「そうだったんですね! 私、宮木モモです。また明日会いましょうね」
「え、また明日、って……?」

 モモと名乗った少女はそう言って手を振り、走り去っていく。彼女の背中を眺めながら、新しい出会いを大事にしなさいと言う祖父の言葉を思い出していた。




 翌日の昼休み、購買のサンドイッチを買いに来たケンジは、売店の前に群がる生徒に圧倒されて言葉が出なかった。田舎の高校では、こんなにも人間がうようよとひしめき合っているのを見たことがなかったからだ。尻込みして売店に近づけずにいると、後ろからポンポンと誰かが肩を叩く。

「こんにちは、ケンジさん」

 振り返ってみると、ブレザー姿のモモがちょこんと立っていた。胸のバッヂの色で、彼女は年下の一年生だと分かる。

「あ、君は。同じ学校だったのか」
「はい、お昼休みに会いに行こうと思っていたんですけど、偶然姿を見かけたので」
「そっか。でも昨日は服が違って分からなかったよ」
「そ、そうでしたね……す、すみません」
「はは、いいっていいって」

 話ながら、モモは立ち往生するケンジを見てはたと気づく。

「もしかして、買い物できなくて困ってますか?」
「ああ、こんな人だかりは初めてで、ちょっとね」
「私が買ってきましょうか?」
「え、出来るのかい? こんな人混みなのに」
「任せてくださいっ」

 えっへんと胸を張るモモに千円札を渡し、ケンジはお願いすることにした。

「じゃあサンドイッチと、飲み物はなにか適当でいいから。頼めるかな」
「せ、せんえんさつ……」
「え?」
「あっ、ななな、なんでもないです! それじゃ、買ってきますね!」

 モモはそう言って、ひしめき合う人の間を器用にくぐり抜けていく。そして購買で買い物を済ませると、流れるような身のこなしで戻ってきた。

「はい、どうぞ。数量限定、売り切れ必至のミックスカツサンドと定番のバナナオレです」
「ありがとうモモちゃん。おかげで助かったよ」
「どういたしまして。おやすいご用ですよ」
「それにしても凄いや。ずいぶんと身軽なんだね」
「えへへ、こう見えても鍛えてますから」

 力こぶを作る仕草をして、モモは明るい笑顔を見せた。

「あの、ケンジさん。よかったらお昼ご飯ご一緒しませんか?」
「えっ、いいのかい?」
「昨日は時間が無くてちゃんとお礼も言えませんでしたし」
「うん、じゃあご一緒させてもらおうかな」

 モモに案内されて、ケンジは校舎裏にあるベンチで昼食を取ることになった。ここは小さな庭園になっていて、植えられた木々の屋根が日光を遮ってくれるので涼しい。ベンチに腰掛けてサンドイッチの袋を開け、一口かじる。隣に座るモモも、手縫いの袋からおにぎりを一個取り出していた。手作りの可愛らしいおにぎりである。モモは両手を合わせて「いただきます」と呟くと、おにぎりをぱくぱくと食べ始め、すぐに平らげてしまった。

「ごちそうさまでした」

 再び手を合わせてお辞儀をし、モモの食事はそれだけで終わってしまった。

「あれ、昼食はそれだけなのかい? ダイエットが必要には見えないけど」
「あはは、気にしないでください。私いつもこれだけなんです。ああ、もうお腹いっぱいだなー」

 取り繕うモモのお腹がぐうと鳴く。彼女は顔を赤くしてうつむいてしまった。ケンジは少し考え、サンドイッチの半分をモモに差し出した。

「よかったら、これ」
「そそそ、そんなのダメですよ。ケンジさんの分がなくなっちゃうじゃないですか」
「僕は平気だよ。モモちゃんこそ、まだ足りないんだろ?」
「でも……!」
「モモちゃんに食べてもらいたいんだ」
「ほ、本当にいいんですか?」

 ケンジはコクリと頷き微笑む。モモはうるうると目を輝かせながら、サンドイッチに口を付け始めた。

「ああ、こんな分厚いお肉食べるなんて、どれくらいぶりかなぁ」
「そ、そうなの?」
「うう、美味しい。美味しいですぅ。このご恩は決して……もぐもぐ」

 サンドイッチを全部食べ終えてから、モモははたと気づく。

「って、ダメじゃないですか私ってば! 恩返ししなきゃいけないのに、またお世話になって」
「いや、別にこれくらい気にしなくても」
「うう、なんて心の広い」

 体操座りで落ち込むモモを慰めていると、いつの間にか数人の生徒たちがベンチの周りを取り囲んでいる。ケンジが彼らの顔を見ると、それは昨日、モモに絡んでいたジョーたちであった。

「この野郎……またモモの近くにいやがって」
「うわっ」

 ジョーはケンジに近づき、いきなり胸ぐらを掴む。その拍子に、食べかけていたカツサンドが地面に落ちてしまう。

「僕がどうしていようが、お前に指図される覚えはないぞ」
「んだとコラァ!」

 刹那、空を切り裂く音がケンジとジョーの間を通り抜ける。それと同時に、胸ぐらを掴んでいた手が弾かれる。モモが、ジョーの腕だけを狙って蹴り上げたのだ。

「最低……!」

 足を真上に振り上げたまま、モモは眉をつり上げ怒りの形相をしている。スカートの中が丸見えになってしまうポーズにケンジは驚いたが、モモはスパッツを履いており、ケンジは安心したようなちょっぴり残念なような気分だった。

「う、待ってくれモモ。これは――!」

 慌てて弁解しようとするジョーの鼻先に、鋭い足刀蹴りが飛ぶ。寸止めではあったが、紙一重の距離で突きつけられた蹴りは、冷や汗をかかせるのに十分であった。

「この際だからはっきりと言っておきますけど、私はあなたと付き合う気なんてありませんから。それと、今後この人に少しでも手を触れたら絶対に許しませんよ」
「く……」

 ジョーは仲間に引きずられ、逃げるように退散していった。モモは蹴り足を戻し、ふうと小さく息を吐く。

「あの人たち本当にしつこくて。ごめんなさいケンジさん、せっかくのサンドイッチが」
「その事はもういいよ。それにしても驚いた……君は強いんだな」

 後になってケンジは知る事になるのだが、モモは天才と呼ばれるほどの空手少女であり、小学生の頃から様々な大会で優勝する実力の持ち主であった。

「お父さんに空手を習ってて、ずっと稽古を続けてきましたから」
「はは、僕のやったことは本当にお節介だったのか。参ったな」
「そんなことないですよ。ケンジさんは勇気がある人だと思います」

 ケンジは少しうつむいて考えた後、顔を上げてモモを見た。

「ひとつ頼みがあるんだけど、聞いてくれるかい」
「はい、私に出来ることならなんでも」
「僕に空手を教えて欲しいんだ――」




 朝は走って新聞と牛乳の配達。放課後は小さな自動車修理工場でワックスがけと壁のペンキ塗りのアルバイト。モモはひたすら、アルバイトの手伝いだけをケンジにさせていた。

「――ワックスは手のひらで円を描くようにしてくださいね。ペンキは手首を柔らかく、上下に動かしながら塗ってください」
「こ、こうかな」
「そうですそうです。外回り、内回りと繰り返して。頑張ってくださいケンジさん」
「い、意外に大変だなこりゃあ」

 最初は付いていくのが精一杯だったが、だんだん身体も慣れ始め、モモの指示通り手を動かし続けているうちに動きが身体に染みついてくる。そんなある日、修理工場でワックスがけに精を出す二人の様子を、物陰から恨めしそうに眺めるジョーとその手下たちの姿があった。

「あのガキ……俺のモモといちゃつきやがって」
「なあジョー、今更なんだけどよう」

 一緒に様子をうかがっている、取り巻きの一人が訊ねる。

「モモのどこがいいんだ? あいつチビでちんちくりんだし、胸も小さいし……」
「だがそれがいいッ!」
「へ?」
「それがいいんじゃねーかこの野郎……あんな可愛いツルペタ貧乳のロリっ娘、他のどこを捜してもいねーだろがコラァ!」

 ジョーは変態だった。

「沢村ケンジとか言ったなあの野郎。一度ぶちのめしてやらねえと気が済まねえぜ」

 嫉妬の炎を燃やしながら、金田は仲間と共に姿を消す。やがて日も暮れ、アルバイトを終えたケンジはモモと別れ家路につく。だが、敵意を抱いた集団が背後から近づいている事に、彼はまだ気づいていなかった。

「ん……うぐっ!?」

 人通りの少ない暗がりに差し掛かったとき、突然現れた金田たちに羽交い締めにされ、ケンジは執拗に痛めつけられた。痛みで声も出ず、人を呼ぶことも出来ない。

「おい沢村ケンジ。ちょっとモモに気に入られたからって調子に乗るんじゃねえぞ。あいつは俺のモンだ。いずれ力ずくでも俺の女にしてやる」
「がは……で、できるもんか。彼女は強いぞ」
「くくく、確かにモモは天才だからな。一対一じゃ難しいが、こうやって不意を突いて犯っちまえば大人しくなるさ」
「お、お前……!」
「悪いのはテメェだ。テメェさえ現れなきゃ、俺だってこんなやり方せずに済んだのによ」

 ジョーを殴りたかったが、地面に押さえつけられて呻き声を出すしかできない。その時、ケンジの眼に作業服姿の中年男が映り込む。

「うむ……物騒な話が聞こえたが、何の騒ぎかね」

 いささか頭部の毛根が寂しいが、柔和な顔をしている小柄な男だった。

「引っ込んでろじじい。余計な口を出すとテメェも痛い目に遭わすぞ」

 ジョーは中年男を見下ろすように睨み付けるが、彼は動じる様子もなく、押さえつけられているケンジを見て嘆く。

「一人を相手に大勢で取り囲むのは恥ずべき事だと、誰かに教わらなかったのか君たちは」
「うるせー! こいつと同じ台詞言いやがって。お前ら、このじじいもやっちまえ!」

 いかにも悪者な合図と共に、手下が中年男に牙を剥く。だが次の瞬間、目の前で起こった出来事にケンジは目を見開いた。中年男は前後左右からの攻撃を平然と避け、鋭い突きや蹴りを繰り出して、あっと言う間に手下たちをやっつけてしまった。一転して状況が逆転したジョーは苦し紛れに殴りかかったが、中年男はそれを左手で受け、腰の入った右の正拳突きを鳩尾に叩き込む。

「ぐえっ、げほっ、げほっ……!」

 ジョーも他の仲間と同じように悶絶し、腹を押さえたまま地面に転がった。

「君、大丈夫かね」

 ケンジは頷き立ち上がったが、足下はふらふらして定まらない。

「手当が必要だな。わしの家に寄って行きなさい。さあ、掴まって」

 中年男の肩を借り、ケンジは彼の家へと案内された。
 都会の片隅にある下町の、古く小さな家の玄関をくぐったとき、ケンジは驚いた。出迎えに奥から現れたのは、エプロン姿のモモだったからだ。

「お帰りなさいお父さ……ケ、ケンジさん!? その怪我、どうしたんですか一体!」
「モモちゃん……? それじゃここは」

 驚いている二人を見て、中年男も意外そうな顔をする。

「なんだモモ、彼と知り合いなのか。わしは宮木ノリユキ。モモの父だ。さあケンジ君、上がりなさい」
「お、お邪魔します」
「モモ、彼の手当をするから薬を用意してくれ」

 居間に通されたケンジは、薬箱を持ってきたモモに事情を説明した。話を聞いたモモは、烈火のごとく憤慨して怒りを顕わにしていた。

「もうあの人たち許せません! 明日直接話付けに行きます!」
「ま、待ってくれモモちゃん」
「えっ」
「連中に近づいちゃダメだ。これ以上関わるべきじゃない」
「でも、ケンジさんをこんなひどい目に遭わせておいて」
「僕は平気だよ。気にしちゃいない。だからもういいんだ」
「ケンジさん……」

 ケンジの意志にモモは怒りを鎮め、傷の手当を始めた。擦り傷を消毒し、打ち身に効くという塗り薬や湿布を使い、絆創膏を貼っていく。

「はい、これで終わりです。痛かったですか?」
「ちょっと傷にしみたけど大丈夫さ。ありがとうモモちゃん」
「あの、ケンジさん。よかったら夕ご飯食べていきませんか?」
「助けてもらって怪我の手当までしてくれて、これ以上お世話になるのは……」
「食べていってください。いつも私とお父さんだけだから、ケンジさんがいてくれると嬉しいです」
「二人……だけ?」
「料理の途中でしたから、すぐに出来ると思います。ちょっと待っててくださいね」

 ぱたぱたとスリッパを鳴らし、モモは台所へと向かう。年季の入った家の中を見回すと、古い棚の中には多くのトロフィーや賞状が飾られ、その横に小さな仏壇があり、モモによく似た若い女性の写真が飾られている。ケンジは仏壇に近づき、写真をまじまじと見つめた。

「これは……」
「モモの母、わしの妻だよ。あの子がまだ小さい頃、病気で逝ってしまったが」

 小さな丸いちゃぶ台の前に座ったまま、ノリユキは答えた。

「すみません、こんな事情があるとは知りませんでした。モモちゃんいつも明るくて、そんな素振りは全然」
「モモは昔のわしの姿を心の支えにしているんだよ。ほら、そこに」

 ノリユキが指す壁に、古い格闘技大会のポスターが貼ってあった。その中央に空手着を着た若いノリユキが写っており、鬼というキャッチコピーが添えられている。

「鬼の宮木……って、もしかして!」

 十五年ほど昔、格闘技会に『鬼』と揶揄されるほどの強さを誇る空手家がいた。小兵ながらその覇気と強さは凄まじく、自分より大きな相手にもまったく引けを取らず連戦連勝。彼の戦いぶりはテレビでも放映され、世間では知らぬ者がいないほどに有名となったが、人気絶頂の中突然引退し、それきり表舞台から姿を消したのである。

「モモちゃんのお父さんが、あの宮木さんだったなんて」
「ははは、全てはテレビの作り出したイメージだよ。本物はこの通り、ただの人さ」
「僕も試合を見た事があります。世の中にはこんなに強い人がいるんだ、って感動しましたよ」
「妻を亡くし途方に暮れていた所に、テレビ局から試合の話が回ってきてね。男手ひとつでモモを育てなければならなかったわしは、養育費を稼ぐために必死で戦ったよ」
「そうだったんですか……」
「だが、観客はわしが勝ち続ける事にもだんだん飽き始めてな。やがていつ負けるかと、みんなの興味は変わっていった。体格差を無視した無茶な試合もやらされたよ」
「そ、そんな身勝手な」
「そんな連中に踊らされるのに嫌気が差して、わしはリングを降りたんだ。だがその時、所属していた団体のマネージャーが詐欺まがいの契約書を突き付けてきてね。稼いだ賞金のほとんどを没収されてしまったよ。おかげでモモにはずいぶん苦労をかけてしまったが、あの子はこんな父親をいつまでも慕ってくれているんだよ」

 それ以上ノリユキは語らなかったが、モモを見れば彼の生き方がいかに誠実であったかを知る事は出来る。ケンジは仏壇に手を合わせ、ちゃぶ台の前に腰を下ろした。

「君の事はモモから聞いていた。最近は君の話ばかりでね」
「な、なんだか照れますね」
「ケンジ君」
「はい」
「君はなぜ、空手を学びたいのかね? 君を襲った連中に復讐するためか?」

 ノリユキの表情は相変わらず柔和だったが、視線は真剣そのものだった。ケンジは考え、言葉を選び答えた。

「……戦わないためです」
「よろしい」

 ノリユキは満足そうに頷き、眼を細めた。

「明日から、アルバイトが終わったらここに来なさい。空手の型を教えよう」
「あ、ありがとうございます!」
「それから、君にひとつ頼みがある」
「はい」
「ケンジ君が嫌でなければ、今度あの子をデートにでも誘ってやってくれんかね」
「ええええっ!?」
「無理にとは言わんが……あの子には空手より、普通の女の子らしいことをさせてやりたいんだよ。モモが聞いたら怒るかもしれんがね」
「い、いやその、僕は全然構いませんけどもっ」

 しどろもどろになっている所へ、モモが夕食を運んできた。ご飯と味噌汁に野菜の煮物。小さなイワシが一匹というささやかな食事だったが、モモの作った料理は美味しく、食卓は楽しかった。




 ケンジが空手を教わり始めてから一ヶ月が過ぎ、夏休みも後半に入っていた。ジョーたちはあの日以来姿を見せなくなったが、ケンジは気を緩めることなく練習に励み、アルバイトも続けた。そして初めてもらった給料の使い道は、もう決めていた。

「――今度の休み、買い物に付き合って欲しいんだ」

 そう言ってモモを誘い、ケンジはデパートに向かう。ケンジはお気に入りのジーンズとシャツを着ているが、モモは普段と変わらぬトレーニングウェアである。エレベーターに乗って女性向け衣類の店舗が揃うフロアに出ると、とあるブティックへ足を運ぶ。モモは自分がこんな場所にいるのが場違いな気がして落ち着かず、ケンジに訊ねた。

「ケンジさん、買い物って一体……」
「えーっと。あ、いたいた」

 ケンジは女性店員に駆け寄って話しかけた後、モモを手招きした。

「この人は僕のいとこでね。色々アドバイスしてくれるから、一緒に服を選んでおいで。ここなら可愛い服もたくさんあるし」
「ええっ? で、でも私、お金が」

 モモは意外に鈍かった。ケンジは困り顔のモモの肩に手を置き、笑って見せる。

「プレゼントだよ。僕の」
「ええええ〜〜〜っ!? そそそんな、こんな高いものを!」
「いつもお世話になってるし、何度も助けてもらってるし。だから遠慮せずに受け取って欲しいんだ」
「い、いいんですか……本当に?」

 今にも泣き出しそうなモモの頭を撫で、ケンジは頷く。

「うう、ケンジさん……ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいのか」

 モモは従姉の店員に連れられて、色々と店の中を見て回り始めた。モモが色々とアルバイトをしているのは、家計を少しでも助けるためである。稼いだお金のほとんどを家に入れてしまうから、自分の服もわずかしか持っておらず、トレーニングウェア以外の私服をケンジはほとんど見たことがなかった。モモ自身は気にしてないと言ってはいたが、お洒落な服を着た少女たちを羨ましそうに眺めていることもあったし、普通の女の子らしいことをさせてやりたいというノリユキの願いも含めて、ケンジはここへ来たのである。

「あ、あのう……」

 考え事をしていたケンジは、呼ばれて我に返る。声のした方を見ると、新しい服に身を包んだモモが顔を赤くして立っていた。紐付きの白いチューブトップに、青いチェックのミニスカート。足下もサンダルに履き替えて、モモは見違えるほど可愛らしい姿に変身していた。

「おおおお」
「へ、変じゃないでしょうか? こういう服着るのって初めてで……」
「変なもんか。凄く可愛いよモモちゃん」
「あわわ、あ、ありがとうございますっ」

 ケンジは従姉に礼を言い、支払いを済ませてブティックを出た。その後は一緒にお店を見て回ったり、クレープを買って一緒に食べたり。モモがどう思っているかは分からなかったが、良いデートだった。モモはスカートの短さを気にしてはいたが本当に楽しそうで、ケンジも思わず表情がほころぶ。だが、幸せな時間は突然に終わりを告げるのだった。

「へへへ、久しぶりだなケンジ」
「ジョー!」

 デートを終えた帰り道で、ジョーとその仲間たちが突然現れ、ケンジとモモを近くの駐車場まで追い込んだ。人数はいつもと同じ、ジョーを含めた六人。駐車場はビルの壁とコンクリートの塀に囲まれて音が漏れにくく、道路から中の様子も見えにくい。ケンジは拳を強く握りしめた。

「まだ諦めてなかったのか」
「たりめーだ。俺はなぁ、どうすればテメェに一番みじめな思いをさせられるか、ずっと考えてたんだよ……あのじじいが近くにいない今がチャンスってわけだ」
「お前は……どうしてこんな卑怯な真似しか出来ないんだ」
「うるせぇ! 俺をコケにしたテメェらには、今から地獄見せてやるぜ……ヒヒ」

 ジョーは粘っこい、いやらしい視線をケンジとモモに向ける。だが、モモも黙ってはいなかった。

「あなたたちがケンジさんをひどい目に遭わせたこと、知ってます。止められてたから我慢してたけど、もう限界です! ケンジさんに手を出したら、私が許しませんよ!」

 モモは身構え、正面のジョーを睨み付ける。だが、ジョーとその仲間たちは、モモをジロジロ見て下品な笑いを浮かべた。

「くくく、その格好でやれんのかあ?」
「ああっ!?」

 モモのスカートは短いうえにひらひらしている。ちょっと動いただけでもパンツが見えてしまうだろう。モモは慌ててスカートを押さえ後ずさる。

「ほれ、そのカワイイ足で蹴ってくれよモモちゃん。パンツの色もちゃんと拝んでやっからよ。今日は何色だ?」
「ひっ……だだだ、ダメですあなたには絶対に教えませんっ!」

 下着を見られてしまう事がよほど効いたのか、モモは完全に動揺してしまっている。こうなると彼女を頼るわけにはいかず、かといって一人で連中を撃退する自信などケンジにはなかった。空手と言っても型を繰り返し練習し続けただけで、実戦の稽古をしたことがなかったのである。

「モモちゃん……」

 ケンジはモモだけに聞こえる小声で呼びかけ、携帯電話を手渡す。

「連中はなんとか引き付けるから、これを持って走るんだ。上手く逃げて誰かに気づいてもらえたら、警察を呼んでくれ」
「そんな事できませんよ。ケンジさんを置いていくぐらいなら、私――!」
「あいつの狙いはモモちゃんなんだ。君に逃げられれば、奴らもそんな無茶はしないと思う」
「……やっぱりダメです」
「モモちゃん、あいつは君を!」
「一人で逃げるのは嫌です。ケンジさんをあの人たちの好きなようにさせるのも嫌です。だから、私も戦います」
「戦うったって、その格好じゃ」
「ケンジさん。お父さんから教わった型、出来ますよね?」
「あ、ああ」
「焦らないで、教わったとおりに動いてください。型の動きを忘れなければ、きっと勝てます。私は相手を誘いますから」
「よ、よし……!」

 ケンジは構えを取り、相手の攻撃に備える。

「思い知らせてやれ!」

 ジョーの声と共に、ケンジの左右を二人が挟む。

「ケンジさん、雲手です!」

 雲手(うんす)とは型の名前である。型の動きをみっちり教え込まれていたケンジの身体は、反射的に動いていた。右側の相手の突きを手で弾き、続けざま胸板へ蹴りを浴びせる。バランスを崩したところで足を引っかけて倒し、鳩尾を拳で突く。一瞬遅れて左側の相手が連続で殴りかかってくるが、ケンジの腕はそれを全て受けきり、前蹴りでがら空きの腹部を蹴り上げると、相手はもう立ち上がってこなかった。

「やりましたねケンジさん。すごい!」
「ほ、本当に僕がやったのか……」

 誰よりも驚いていたのはケンジだった。モモに鍛えられた基礎と身体に染みついた型は、想像以上の力をケンジに与えていたのだ。

「ちっ、まぐれ当たりだ! 今度は四人で一気にやっちまえ!」

 四方からジョーと手下が迫る。モモはスカートを気にしながら、ジョーともう一人を引き付けてくれたが、ケンジには残りの二人が同時に襲いかかった。

「うわっ」

 前後から二人がめったやたらに突きや蹴りを繰り出してくる。ケンジは手数と勢いに押されて何発か殴られたが、以前とは違って相手の動きがよく見えるし、受け方や避け方も知っている。正面の相手が隙だらけの蹴りを放った瞬間、ケンジの手は円を描いて足を巻き込む。ひたすらワックスがけで覚えた、あの動きだ。勢いを逆利用された相手の身体は宙に浮き、そのまま落下してしたたかに背中を打ち付けた。ケンジは素早く振り返り、背後の相手に正拳突きをお見舞いし、軸足を払って倒す。硬いコンクリートに身体を打ち付けた二人は、痛みに悶えて呻き声を上げるばかりだ。

「モモちゃん!」

 モモの方に目をやると、彼女は必死に相手の攻撃を避けていた。普段なら受けたり蹴りで反撃しているはずが、今日は触れられることさえ嫌がっている。新しい服がこんな形で裏目に出てしまったことを悔やみながら、ケンジはモモの背後にいた一人を捕まえて引き離し、素早く突きと蹴りを叩き込んでやっつけた。とうとう一人になったジョーは、堰を切ったようにわめき始める。

「モモ、なんで俺の気持ちがわからねえ! 俺は! 俺は!」
「あなたと付き合う気はないって断ったじゃないですか。それなのに、もうっ」
「俺以外の誰が、お前みたいなツルペタ貧乳ロリ少女を愛せるって言うんだッ!」
「う……な、なんてことを!」

 モモは眉をつり上げ、涙目になって頬をふくらませる。どうやらジョーは、触れてはいけないものに触れてしまったらしい。モモは手の甲でジョーのまぶたを打ち、ジョーが怯んで膝を曲げた瞬間、モモは跳んだ。

「私は! あなたが! だいっ嫌いですッ!」

 ジョーの膝を踏み台に、強烈な飛び後ろ回し蹴りが炸裂。ジョーはもんどり打って吹き飛び、そのまま気絶してしまった。その瞬間モモのパンツが見えてしまったが、他に誰も見ていなかった事にケンジは胸をなで下ろす。

「怪我はないかい?」
「はい、どこも触られていません。ケンジさんこそ大丈夫ですか?」
「ちょこっと殴られたけど、どうってことない」
「ダメですよ、ちゃんと手当てしないと」
「とにかくここを離れよう」

 ケンジはモモの手を引いて、駐車場を後にした。




 モモがケンジの怪我を心配するので、そう遠くないケンジの家に二人は立ち寄った。両親は仕事からまだ帰っておらず、ケンジは自分の部屋で手当をしてもらっていた。とはいえ、軽く打ったり擦りむいただけで、怪我は本当に大したことはなかった。

「……無事で良かったです。ごめんなさいケンジさん」

 ベッドに腰掛けるケンジに絆創膏を貼り、モモは申し訳なさそうに呟く。

「気にしなくていいよ。あいつらも二度と手を出したりしてこないだろうし」
「だって、私のせいでケンジさんがひどい目に遭ってしまって。初めて会ったあの時、私を助けようとしなきゃこんな事には」
「僕は自分のしたことを後悔してないよ。確かに痛い思いはしたけど、僕は強くなれた。それに――」

 ケンジはモモの手を握り、真っ直ぐに彼女の目を見て笑う。

「君と知り合えた事は本当に良かったと思ってる」
「ケ、ケンジさん、そんな……」

 モモは耳まで真っ赤になり、恥ずかしそうに視線を泳がせる。

「モモちゃん」
「は、はいっ」
「僕と付き合って欲しい」
「よ、喜んで……って、えええ!? えっと、あのっ、あのっ! わ、私なんかでいいんですか? 背も低いし子供っぽいし、家も貧乏だし女の子らしくないしっ」
「あはは、モモちゃんには女の子らしい所、いっぱいあるよ」
「でも、でもっ……胸なんか本当にぺったんこで色気だって……自信、ないです」

 ケンジはモモを抱きしめてキスをし、そっと囁く。

「モモちゃんは可愛いよ。嘘じゃない」
「うう……嬉しいです。そんなこと言ってもらったの、生まれて初めてです」

 目に涙をいっぱいに浮かべ、モモはケンジの背中に手を回した。

「んっ……んうっ……」

 長いキスの後、ケンジはあらためて訊く。

「ごめんモモちゃん。ちょっともう、収まりが」
「は、はい……いいですよ」
「大丈夫?」
「すごくドキドキするけど……ケンジさんを受け入れてあげたいですから」

 ケンジは再び唇を重ね、肩にかかったチューブトップの紐を外し、下にずらす。くっきりと分かれた日焼け跡と白い肌とのアンバランスさが、健康的でエロティックな雰囲気を醸し出している。


 顕わになったモモの胸は本当にささやかなものだったが、それもまた愛おしく、可愛いと思った。蕾のような乳首に指先が触れると、ピクンとモモの身体が硬直する。硬く尖ってきた乳首を弄り続けていると、モモは切ない吐息を漏らす。

「ああ……はあっ……」
「触られると気持ちいい?」

 モモは頬を染めたまま、こくんと頷く。ケンジは彼女をベッドに寝かせ、乳首に吸い付いた。

「ひゃうっ! ああっ、あっ!?」

 モモの胸は小さいながら感度は抜群で、舐めたり指を這わせるだけでかなり感じているようである。ケンジは手をさらに下へと動かし、細く締まった太ももを撫で回す。モモの肌はすべすべとして弾力があって心地よい。スカートの中に手を伸ばすと、モモはきゅっと両足を閉じる。

「は、恥ずかしいです……もう顔から火が出そうですよう」
「大丈夫、力を抜いて。優しくするから」

 モモは両手で顔を押さえたまま、足の力を抜いていく。ケンジはスカートの奥にある布地の、さらに奥へと手を滑り込ませた。丘の上にうぶ毛がいくらか生えてはいたが、それ以外はほぼ無毛のそこは熱を帯び、柔らかな秘唇の奥からぬるっとした液が滲み出していた。

「はっ、はあんっ……あああっ」

 表面を指でなぞり、上下に擦るとモモの腰が浮く。スカートの奥に手を入れられて悶えるモモの姿に、ケンジもさらに興奮してしまう。蜜液はさらに奥から溢れ出し、くちゅくちゅといやらしい音が部屋に響き始める。

「ううっ、ああん……ケ、ケンジさん。ふ、服を……脱いでいいですか? このままだとしわになっちゃいます」
「あ、ああ」

 一度手を止め、ケンジはモモが脱ぐのを待つ。モモはチューブトップとスカートを綺麗にたたんで近くのテーブルに置いたが、パンツはそのまま残っていた。

「あの……最後は自分じゃ恥ずかしくて」
「わ、わかった。じゃあ僕が」

 ベッドにモモを寝かせてパンツ脱がせていくと、ほぼ無毛といってもいいモモの秘裂が現れた。彼女の両足の間に割って入り、ゆっくりと足を広げると、モモのそれは透明の液で濡れ光っていた。

(す、すごい……)

 そこを指で押し広げると、サーモンピンクのヒダが目に飛び込む。彼女の名の通り桃色なそこは、ピクンピクンと収縮を繰り返す。初めて見る淫靡な光景に、ケンジはごくりと唾を呑み、そこにキスをした。

「ひゃぁぁぁんっ!?」

 想像もしていなかった行為に、モモは仰け反る。唇と舌で秘唇を愛撫される快感に、モモは喘ぎ声を止められずにいた。粘膜に、クリトリスに舌が這う度に押し寄せる快楽の波を、モモは必死で耐えている。ケンジは彼女の膣内に舌を入れて舐め回した。

「や、らめ……ケンジさん、ヘンな声……でちゃ……ひうっ」
「気持ちいいんだねモモちゃん」
「や、やぁっ……あっ、あぁんっ!」

 モモはひときわ大きな声を出し、直後に身体の力が抜けてしまった。

「は……は……あぅ……」
「モモちゃん、イッたのかい?」
「よ、よくわかんないですけど……声が勝手に」
「すごく可愛い声だったよ」
「やぁんっ……」

 ケンジも服を脱ぎ、張り詰めたペニスをモモの秘唇にあてがう。

「もっと見たいし聞きたいな。モモちゃんの可愛いの全部」
「やだぁ……ケンジさん、目がエッチです」
「挿れるよ」
「あああっ」

 ケンジはモモの中に押し入っていく。たっぷりと舌でほぐしたせいなのか、モモの膣内はさして抵抗もなくペニスを受け入れる。だが、驚いたのはその後だった。

「う……わわっ」

 彼女の呼吸に合わせて、膣壁がきゅっきゅっと連続で締め付けてくる。それもただ締まるだけでなく、絶妙な力加減でケンジを包み込むのだ。空手で鍛えていたおかげなのか、モモは間違いなく名器の持ち主だった。想像したこともない気持ちよさに、ケンジはいきなり射精してしまいそうだった。

「ど、どうしたんですか? 私、なにかヘンですか?」
「い、いや、気持ちよすぎてもう」
「いいですよ……気持ちよかったら、遠慮しないで」

 同時に、モモの膣内が意志を持ったかのようにきゅうっと締まり、ケンジはたまらず射精してしまった。

「ふあぁ……ケンジさんの、お腹の中いっぱいで……あったかいです」
「うう、ごめんモモちゃん。我慢できなくて」
「ケンジさん」
「えっ?」
「もっと私で……気持ちよくなってください」

 そう言ったモモの顔は可愛くて淫らで。ケンジはたまらなくなって彼女を抱き起こし、互いに座ったままの姿勢で続きを始めた。

「あっ、やっ、この格好恥ずかしいっ……私とケンジさんが繋がってるとこ……ああんっ」
「ああ、よく見えるよ」

 下を見れば、蜜液でぬらぬらと光ったケンジのペニスが、モモの中に出入りしているのがよく見える。動くたびにくちゅくちゅと音を立てる、あまりに卑猥な光景に、モモは恥ずかしがりながらも目が離せないでいた。

「やぁ、いやあ……あっ、あんっ、あんっ! ケ、ケンジさん、ケンジさぁんっ」
「はあ、はあ……モモちゃん、モモちゃんっ」

 二人はもう、何も考えられなかった。ひたすらに互いを求めて。ただ深く深く繋がりたいと――そしてキスをしたまま、二人は登り詰めた。

「うっ、くぅっ……!」
「ふぁ、ああ……ああぁぁー……!」

 初めてなのに、二度も自分を受け入れたモモが愛おしいとケンジは思う。小さな身体でしがみついてくる彼女を抱き寄せ、ツンと跳ねた髪を撫でた。




「はっ! はっ! せいっ!」

 モモの自宅の小さな庭で、ケンジは型の練習を続けていた。傍らにはモモがいて、型が終わるとタオルと冷えた麦茶を差し出してくれる。そんな二人の様子を見て、縁側に座るノリユキは表情をほころばせていた。

「ありがとうケンジ君。おかげでモモもずいぶん女らしくなったよ」
「ちょ、ちょっとお父さんっ。なに言ってるのようっ」
「ははは、ケンジ君と出会う前は、男の子と見分けがつかんかったからな」
「失礼なこと言わないでよー!」

 睦まじい親子のやりとりに、ケンジもつられて笑顔になる。

「ケンジ君。これからもモモのことをよろしく頼む」
「はい!」
「うむ……ただしひとつだけ忠告がある」
「なんでしょうか?」
「若い二人に野暮は言わんが、孫の顔を見るのはもう少し先の方が望ましいな」
「げほっげほっ!」

 モモが顔を赤くして詰め寄ると、ノリユキは笑いながらひょいひょいと逃げて行ってしまった。

「まったくもう、お父さんたら」
「はは、案外シャレが好きなのかも」
「でも……いつかそうなれたらいいですね」

 モモは照れながら、もじもじとうつむいて言う。そんな仕草が可愛くて、ケンジはモモと出会えて本当に良かったと思った。彼女こそが、自分にとっての『ベスト・ガール』だったと――

目次へ戻る


Copyright(c) 2009 netarou all rights reserved.